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呪月の罪人は檻の中・9
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呪月の罪人は檻の中・9
by
shizuku
2024/11/01 00:21
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Comment by author
shizuku
いかにも終わりっぽいけどまだ続く。過去編多め。
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{ "lines": [ { "c": "layer", "p": { "no": "0", "src": "266", "path": "20120818005224_72db3d07.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "【タップでスタート】" }, { "c": "msg", "p": "俺がちょうど小学三年生に上がった頃。兄が勉強の合間の散歩に、俺を誘ってくれた。" }, { "c": "msg", "p": "久々に構ってもらえたことが嬉しくて、俺はワクワクしながら家を飛び出した。" }, { "c": "layer", "p": { "no": "1", "src": "2533", "path": "20170506193614_ade76564.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "その日は、里山でいつものようにハイキングコースで競争をするはずだった。" }, { "c": "msg", "p": "けれど、兄と里山に到着した時、どこからかか細い鳴き声が聞こえて来たんだ。" }, { "c": "msg", "p": "俺と兄は誰かが迷子になっていると思い、道を外れて探した。" }, { "c": "msg", "p": "探し続けて、三十分ぐらい経っただろうか、俺は少し開けた空間に一匹の大型犬を見つけた。そいつはくすんだ茶色の毛の犬で、口元から僅かに呼吸音が漏れていた。" }, { "c": "msg", "p": "首には太い麻縄が巻き付いていて、おれはそいつに駆け寄ると、持っていて水筒から水を与えた。" }, { "c": "msg", "p": "その間に兄が獣医に連絡をしてくれて、そいつはすぐに近所の動物病院に運ばれた……らしい。" }, { "c": "msg", "p": "その数日後に病院から連絡があって、俺はそいつの様子を見に行くことになった。" }, { "c": "layer", "p": { "no": "2", "src": "1227", "path": "20141105230322_ab89e8ff.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "くすんだ茶色が麦わら色に変化していたので、最初俺は檻の中の怯えたそいつが、本当にあの時の犬か分からなかった。" }, { "c": "msg", "p": "兄と父が獣医から話を聞いている間、俺はずっとそいつに話しかけた。大人達に檻の中に手を入れてはいけないと言われたので、せめて会話がしたかったのかも知れない。" }, { "c": "msg", "p": "【友志】『お前まだ子どもなんだって。じゃあ親はもっと大きいんだな!』" }, { "c": "msg", "p": "【ヘル】『……ゥ』" }, { "c": "msg", "p": "【友志】『俺はなー、にーちゃんもいるんだぞ。お前は?』" }, { "c": "msg", "p": "【ヘル】『……ウォフ』" }, { "c": "msg", "p": "そんな調子で十分ぐらいすると、そいつは鉄柵のギリギリまで来て、俺と喋ってくれた。" }, { "c": "msg", "p": "お互いがお互いの言っていることが分からなくても、ちゃんと「対話」してたんだ。" }, { "c": "msg", "p": "……その中で、両親の喧嘩についても話した記憶がある。" }, { "c": "msg", "p": "【友志】『「ばらばら」になっちゃいそうで、すげー怖かった。けどさ、にーちゃんがそん時に言ったんだ』" }, { "c": "msg", "p": "【友志】『「俺はかすがいになりたい」って。なんか、父さんと母さんを結びつける? 役目らしいよ』" }, { "c": "msg", "p": "【ヘル】『ウォン……』" }, { "c": "msg", "p": "【友志】『かっこいいだろ? ……俺はにーちゃんみたいになりたいよ。怪獣をやっつけるヒーローじゃなくていい。いえをまもりたい』" }, { "c": "msg", "p": "俺が俯きながらそう言うと、そいつは鉄柵ごしに俺にすり寄って来た。" }, { "c": "msg", "p": "伝わったのかと思うと嬉しくて、俺は泣きそうになりながらそいつの頭を撫でた。" }, { "c": "msg", "p": "そして案の定、大人達から怒られた。" }, { "c": "msg", "p": "【父】『まったく。烈志、俺が見てない時は友志を頼むと言ったろう』" }, { "c": "msg", "p": "【烈士】『分かったって父さん、友志もあの子と仲良くしたかっただけだもんな?残念だけどもう帰るよ』" }, { "c": "msg", "p": "【友志】『うん!』" }, { "c": "msg", "p": "俺は兄と父に片手ずつ預けて、病院を後にした。" }, { "c": "msg", "p": "その時に、後ろからそいつの元気な鳴き声を聞いて、嬉しかったことを覚えている。" }, { "c": "layer", "p": { "no": "1", "effect": "fadeOut" } }, { "c": "layer", "p": { "no": "2", "effect": "fadeOut" } }, { "c": "msg", "p": "ーーー後日、病院から、そいつが姿を消したと聞いた。" }, { "c": "msg", "p": "・ ・ ・" }, { "c": "layer", "p": { "no": "3", "src": "229", "path": "20120808205039_b2624147.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "【友志】「じゃあ……あの時の」" }, { "c": "msg", "p": "【ヘル】「……はい、あの後魔法使いさんが見つけてくれて、帰ることが出来ました。でも、ユーシさんの世界でボクは一つ重大な過ちを犯した」" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「過ち?」" }, { "c": "msg", "p": "【ヘル】「……誓いをあなたにしてしまったことです」" }, { "c": "msg", "p": "ヘルが真剣な顔で俺のことを覗き込んでくる。" }, { "c": "msg", "p": "【ヘル】「……ボクと弟は、父から受け継いだ力があります。それは、一人の人物を生涯の主とすると誓い」" }, { "c": "msg", "p": "【ヘル】「その方の命が絶えるまで、護り続けられる力……主人の危機が分かる力です」" }, { "c": "msg", "p": "俺はそこまで説明されてやっと気がつく、ヘルは俺を、異世界の人物を主としてしまったんだ。" }, { "c": "msg", "p": "魔界が基本受け入れる側の存在なのだというのなら、異世界に対しヘル個人が何かしらの行動を起こすことは出来ない。" }, { "c": "msg", "p": "【ヘル】「……見てるだけでした、ずっと。これでやっと、主の……あなたの役にたてる」" }, { "c": "msg", "p": "ヘルは静かに立ち上がり、マントを撫でるように払うと、泣きそうな笑顔で口を開いた。" }, { "c": "msg", "p": "【ヘル】「また会えて本当に嬉しかった。けど、あなたは帰らなくちゃ。自分で気がつけた理由のために」" }, { "c": "msg", "p": "だから、と幽かな声が聞こえたのと同時に、" }, { "c": "msg", "p": "俺の額に柔らかくて、でも緊張で震えているヘルの唇が触れる。" }, { "c": "msg", "p": "【ヘル】「急いでユーシさん。お茶会におくれちゃう」" }, { "c": "msg", "p": "・ ・ ・" }, { "c": "layer", "p": { "no": "4", "src": "2531", "path": "20170505234808_4615670c.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "俺は少し早足でテラスへと向かう。" }, { "c": "msg", "p": "先ほどの出来事の衝撃が冷めず、顔がまだ熱い。なんだか落ち着かない。" }, { "c": "msg", "p": "そもそも9歳ぐらいの子にキスされて何故ここまで動揺しているんだ。" }, { "c": "msg", "p": "俺が首を振って、何とか気持ちを切り替えようとしている時。" }, { "c": "msg", "p": "俺の視界に二度目のカーキ色の外套がひらりと揺れ、柘榴色のガラス玉が艶やかに光る。" }, { "c": "msg", "p": "どうやら彼女は、今度はもうすでに扉を開けて待っていてくれたようだ。" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「ドール」" }, { "c": "msg", "p": "【ドール】「カヤマさん。お茶会には間に合いましたね」" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「そうか……よかった」" }, { "c": "msg", "p": "肩から一気に力が抜け、俺は安心しきった状態で近づいていく。" }, { "c": "msg", "p": "そんな中ドールがふと思い出したように片方の手で拳を作り掌を叩いた。" }, { "c": "msg", "p": "【ドール】「ヘルはあの体躯ですが、あと68日で16歳になります」" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「あ、え、ふぇい!?」" }, { "c": "msg", "p": "俺が全力で首をドールに向ける、するとどうだろう。彼女はぷるぷると肩を振るわせているじゃないか。" }, { "c": "msg", "p": "ドールはがっくりした俺の様子など気にもとめず、静かに息を吐き扉の脇に避けて口を開いた。" }, { "c": "msg", "p": "その言葉は俺を正気に戻すには十分すぎるものだった。" }, { "c": "msg", "p": "【ドール】「あなたが一生自分に嘘を吐きたいのなら、通らずにこの世界にいればいい。嘘と、自分と向き合いたいのなら、いるべき世界に還りなさい」" }, { "c": "msg", "p": "・ ・ ・" }, { "c": "msg", "p": "俺はしっかりと肯定のために頷いて、再び魔法使いのお茶会へと向かうために扉をくぐった。" }, { "c": "layer", "p": { "no": "5", "src": "900", "path": "20140101192943_334f5105.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "背後で扉が閉まる音が響いたが今度はもう振り返らなかった。" }, { "c": "msg", "p": "俺はもう一度歩く道をじっと見ながら歩いて行く。" }, { "c": "msg", "p": "俺の理由は、《意志》はもう固まっていた。" }, { "c": "msg", "p": "あとは、魔法使いにそれを伝えるだけ……なのに、どうして怖いんだろうか。" }, { "c": "msg", "p": "——誰一人、いなかった俺の病室を思い出した。" }, { "c": "msg", "p": "——誰一人、俺を待ってなんていないかもしれない。" }, { "c": "msg", "p": "でも、関係無いんだ。そんなこと。" }, { "c": "msg", "p": "今は歩かなければ、今の状況では止まることは諦めと同等だから。" }, { "c": "layer", "p": { "no": "6", "src": "22", "path": "20120731134412_5c5a62cb.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "……今度は、茂みの前に兄は居ない。" }, { "c": "msg", "p": "俺は小さく踏みしめてきたその足を、茂みの中へと大きく踏み込ませた。" }, { "c": "layer", "p": { "no": "7", "src": "266", "path": "20120818005224_72db3d07.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "ーーそうここからがきっと、この物語の正念場。" }, { "c": "msg", "p": "・ ・ ・" }, { "c": "msg", "p": "踏み込んだ先に魔法使いが待っていた。" }, { "c": "msg", "p": "俺は魔法使いが声をかけてくるのを待たずに、前に座った椅子にもう一度腰掛けた。" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「ユーシさん、皆に会ったのですね」" }, { "c": "msg", "p": "カップを置くと、魔法使いは俺にようやく視線を移す。表情は変わらず笑顔のままだ。" }, { "c": "msg", "p": "……ここで、理由を一方的に言ってしまえば、帰れるだろうが。俺にはどうしても解消しておきたい疑問が残っている。" }, { "c": "msg", "p": "ゆっくり深呼吸をした後、俺自身の喉から声を出した。" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「罪人が何か。教えてくれますよね」" }, { "c": "msg", "p": "俺の質問に、魔法使いは微かに動揺したようだった。" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「アン達が軽い説明ならしてくれました。けどまだ、何故罪人が魔界に連れて来られたのか、俺は知らない」" }, { "c": "msg", "p": "あの愉快犯について言うべきか迷ったが、それは黙っておくことにしよう。" }, { "c": "msg", "p": "肝心の彼女は、紅茶の水面に視線を落とす。そして微笑を浮かべたままに口を開いた。" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「……人の住む国には法律がありますよね」" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「法?」" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「そう、それで裁かれなかった罪人もいつか必ず世界の法で、罰を受けます。因果応報とでもいいましょうか」" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「ですが……」" }, { "c": "msg", "p": "魔法使いがおもむろに椅子から立ち上がると、ちょうど風が吹き彼女の金髪を揺らした。" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「我々は何故か、人が定めた法でも、世界の法でも裁かれずじまいだった。確かにここに、罪があるのに。我々は卑しき罪人なのに」" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「故に皆、望んだ……『愚かな私にどうか裁きを!死では償えぬ我が罪に罰を!!』と」" }, { "c": "msg", "p": "俺が息を飲み黙り込んでも、魔法使いは特に気にすることなくもう一度座り直そうとする。" }, { "c": "msg", "p": "【友志】(ドールが自分をニセモノと言ったのは、そんな自分の事を嫌ってのことか……?)" }, { "c": "msg", "p": "そんな中、静寂だったその空間に、慌ただしいけれど規則正しい二人分の足音が現れた。" }, { "c": "msg", "p": "【アン&アン】「「ママー、ユーシー!」」" }, { "c": "msg", "p": "現れた双子はいつもの斧を持って、空いている手を繋ぎながら、魔法使いの元へかけよった。" }, { "c": "msg", "p": "【アン&アン】「「ママ、はいこれ。もってきたよーー」」" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「ありがとう。アン、アン」" }, { "c": "msg", "p": "魔法使いは何やら双子から受け取るとそれを俺の目の前に置いた。" }, { "c": "msg", "p": "それは、" }, { "c": "msg", "p": "それは、俺が昔に兄に折った四葉のクローバーの折り紙だった。" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「……なんで、ここに」" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「これもユーシさんにとっては、自分の鍵なのでしょうね。じゃないと、魔界に存在するわけありませんから」" }, { "c": "msg", "p": "【アン&アン】「「ユーシのねてたへやのたなに、とりにいったんだよー」」" }, { "c": "msg", "p": "双子は俺に向けてえっへんと胸を張るが、魔法使いに促され、渋々とこの場から離れる。" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「さて、とユーシさん」" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「はい」" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「あなたが魔界の住人になりたければ紅茶を啜り、帰りたければ自身の鍵を握って、私に理由を教えて下さいな?」" }, { "c": "msg", "p": "彼女はふわりと両手を開き、俺に問うた。" }, { "c": "msg", "p": "もう、夢から覚める時間なんだよとでも、言い聞かせるように。" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「俺は……」" }, { "c": "msg", "p": "まだ、脳裏に僅かな恐怖心が残っている。けれども、それは帰るのが怖いんじゃない。" }, { "c": "msg", "p": "俺が居なくても結局何も変わらないんじゃないか、などという考えがまだへばりついているんだ。" }, { "c": "msg", "p": "それでも、帰りたいんだ。向き合わなくちゃいけないのだから。" }, { "c": "msg", "p": "———向き合いたいのだから。あの日、兄に言った言葉に。" }, { "c": "layer", "p": { "no": "8", "src": "25", "path": "20120731134955_04ef3d43.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "あの日、兄が帰って来た日。俺が告げてしまったこと。" }, { "c": "msg", "p": "【友志】『ーー兄貴、なんで、なんでそんな風になっちまったんだよ! さっさと……出ていけよ!』" }, { "c": "layer", "p": { "no": "8", "effect": "fadeOut" } }, { "c": "msg", "p": "俺の、罪。" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「……自分に嘘を吐いて、後悔を重ねて、それに押しつぶされずに生きれるほど強くない」" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「だから、向きあいたい。家族のためにとは言わない。何よりも俺自身のために、チャンスをくれ」" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「……それがあなたの正解ですか」" }, { "c": "msg", "p": "魔法使いは椅子から立ち上がり、細い指を打ち鳴らす。すると、俺は急に浮遊感を感じ始めた。" }, { "c": "msg", "p": "慌てて自分の手を見れば、指先から少しづつ花びらへ変わり空中で消えていっている。" }, { "c": "msg", "p": "……来る時には穴に落ちて、帰る時には空へ浮かぶのか。" }, { "c": "msg", "p": "俺があまりにもあっさりした別れに苦笑いを零すと、魔法使いが俺の傍に近寄って来た。" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「カヤマユーシ、私にとっての《呪い》を《絆》と言ったあなたに、一つ教えてあげましょう」" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「はあ……」" }, { "c": "msg", "p": "彼女は今まで俺が見て来た通りの含み笑いで、右手を胸元に添える。" }, { "c": "msg", "p": "俺の両腕が完全に消えた時に、ようやく穏やかな呼吸音が聞こえた。" }, { "c": "msg", "p": "【魔法使い】「ーーーローズ=ザラ=エンブリー、これが私の本名です」" }, { "c": "msg", "p": "その言葉を聞いたのと同時に、俺から様々な景色が、「記憶」が消え失せた。" }, { "c": "layer", "p": { "no": "9", "src": "1080", "path": "20140512131033_3a318521.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "・ ・ ・" }, { "c": "msg", "p": "俺がもうちょっと冷静に行動していたならば。きっと、あそこに迷い込むことも無かった。だけど、俺は……彼らに会えたことを、後悔しないと思う。" }, { "c": "msg", "p": "たとえ消される記憶だったとしても俺一人じゃ気がつかなかったから。" }, { "c": "msg", "p": " きっと、一生。" }, { "c": "msg", "p": "・ ・ ・" }, { "c": "layer", "p": { "no": "10", "src": "392", "path": "20121007014020_8540f075.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "うっすらと俺の目が開く。" }, { "c": "msg", "p": "もう夕方になっているのか、病室の中は薄暗い。" }, { "c": "msg", "p": "俺は誰かに手を握られていることに気がついて、隣に首を傾けた。" }, { "c": "msg", "p": "そこにある椅子には、兄が座っていた。" }, { "c": "msg", "p": "……さっきは誰もいなかったはずなのに。" }, { "c": "msg", "p": "【友志】(あれ? 俺って今起きたんだよな? さっきっていつだ?)" }, { "c": "msg", "p": "どこか不思議な感覚が俺の脳内を飛び交うが、不思議と嫌なものには感じなかった。" }, { "c": "msg", "p": "俺はじっと兄を見つめる。" }, { "c": "msg", "p": "兄は前に会ったときよりも少しやつれたようだ。ピアスも脱色された髪もそのままだけれど、顔に所々ケガをしていて、あの香水が混ざった嫌な匂いもしなくなっている。" }, { "c": "msg", "p": "そしてその手には、何とも懐かしい俺が昔折った四葉のクローバーが握られていた。けど……僅かに形が崩れている気がする。" }, { "c": "msg", "p": "数秒、ほんの数秒間だが、俺は久方ぶりに見た兄を前にして思考が止まってしまう。" }, { "c": "msg", "p": "しかし、戸惑う俺の頭の中でどこか聞いたことのある声が、無理矢理に意識を現実に浮上させた。" }, { "c": "msg", "p": "『向き合いたい。家族のためにとは言わない。何よりも俺自身のために』" }, { "c": "msg", "p": "【友志】(……そうだ。向き合わないと……謝らないと。拒絶が怖いけど、向き合うことをしないと)" }, { "c": "msg", "p": "【友志】(いつか、絶対に後悔する)" }, { "c": "msg", "p": "俺が起きたことに気がついたのか、兄が目を開いてこっちを見やった。" }, { "c": "msg", "p": "【烈士】「友志……起きたのか」" }, { "c": "msg", "p": "兄は俺が初めて聞く弱々しい声をもらして、ゆっくり立ち上がり部屋から出て行こうとした。" }, { "c": "msg", "p": "その様子が、俺の目には後悔している老人に見えた。" }, { "c": "msg", "p": "……まだ、やり直せるはずなのに。" }, { "c": "msg", "p": "【烈士】「親父達。呼んでくる」" }, { "c": "msg", "p": "【友志】「……待って、よ」" }, { "c": "msg", "p": "俺は情けない掠れ声で、何とか兄を呼び止めた。" }, { "c": "layer", "p": { "no": "13", "src": "1080", "path": "20140512131033_3a318521.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "【友志】「にーちゃん、でてけなんて言って、ごめん。俺、にーちゃんともっと話がしたい」" }, { "c": "msg", "p": "俺の祈りに、兄はほんの少しだけ俺の方を振り返って頷いてくれた。" }, { "c": "msg", "p": "ーーーここが、始まり。" }, { "c": "layer", "p": { "no": "13", "effect": "fadeOut" } }, { "c": "layer", "p": { "no": "11", "src": "266", "path": "20120818005224_72db3d07.jpg", "x": "0", "y": "0", "effect": "fadeIn" } }, { "c": "msg", "p": "・ ・ ・" }, { "c": "msg", "p": "【後書き】" }, { "c": "msg", "p": "プレイありがとうございます! この後友志側の後日談と、魔界側の後日談を入れた「10」を投稿します。" }, { "c": "msg", "p": "それで本編は終了と致します。友志の物語をどうか最後まで見届けてやって下さい。" }, { "c": "msg", "p": "※「10」とは別に「おまけ」を出す予定です。そちらで罪人達の過去をほのめかそうかなと考えています。" }, { "c": "msg", "p": "・ ・ ・" }, { "c": "layer", "p": { "no": "12", "src": "1716", "path": "20160506135800_bfc5e9fd.jpg", "x": "0", "y": "0", 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