呪月の罪人は檻の中・１ : ドリームメーカー

呪月の罪人は檻の中・１

shizuku 2023/12/10 18:42 82 0 0 0

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shizuku ーー少年は異世界を奔走する。自身の『理由』を探すため。 ※中編です。週一で、一章ずつ公開していきます。作者が他サイトで完結させた小説を元にした、ノベルゲームです。 0〜10ほどのエピソードに分かれると思われます。 ※一本道シナリオ(小説まんまなんで……)

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      "p": "ーーーそれは酷く億劫な目覚めだった。"
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      "p": "寝起きのためか、まだ頭がはっきりしていない。"
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      "p": "俺の顔の前に見覚えの無いタオルが揺れている。"
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      "p": "俺はなかば強引に体を起こして、近くにあった大木にもたれ掛かり、辺りをきょろきょろと見回してみた。"
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      "p": "少なくとも、俺の走ってきた道じゃこんな場所にはたどり着かないはず。"
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      "p": "周囲で目立つものは、俺の目の前にぽつりとある小さな池ぐらいだ。"
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      "p": "それは日光をきらきら反射している……っていつのまに昼になったんだ？"
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      "p": "あと、それ以外であるとしたら、針葉樹とも広葉樹ともつかない緑の葉が、先ほどから風に揺れて楽しげに歌っていることくらいか。"
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      "p": "公園とかでする草の匂いが鼻につく。"
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      "p": "たっぷりと葉が茂っている枝はやけに曲線的で、幹は俺の両腕を伸ばしても足りないぐらい太く、幹の色も濃い緑色しか見当たらない。"
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      "p": "地面の草も緑であまつさえ辺りの大木も緑。 これで空や池まで緑色だったならば、ちょっと気がふれていたかも知れない。"
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      "p": "勿論、全部同じ緑色では無いのだけれど。それでも目が痛くなる。"
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      "p": "あと、誰にというわけではないが言っておこう。"
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      "p": "「歌っている」というのは決して比喩ではない。俺は目の前の出来事をそのまま言葉にしただけだ。"
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      "p": "【葉】『ルルリルリリラ♪　 リリルリラー♪　ラリルリラリラ♪　ラリルルラ♪』"
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      "p": "混乱し過ぎたせいか、俺の口角が上がって片側が不自然に引きつった笑みになる。いや、笑うところじゃないんだけどね。普通なら。"
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      "p": "【友志】「ほんと。ありえねぇ……」"
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      "p": "ーーー俺は、どこにいるんだろうか？"
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      "p": "正直に言おう、まったくこの場から動く気力が湧いて来ない。"
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      "p": "けれど、ここでいつまでも乾いた声で笑っているわけにもいかない。それじゃあただの変人だ。"
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      "p": "【友志】(ひとまずここから移動しよう)"
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      "p": "のそりと立ち上がって、俺はあることに気がついた。むしろ、俺はなぜ今の今まで気がつかなかったのかが不思議なくらいだ。"
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      "p": "——俺の制服が、どこにもない。"
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      "p": "いや、さすがにちゃんと服は着ている。"
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      "p": "ただ……家を飛び出した時には着ていたはずの詰め襟、俗にいう学ランが見当たらない。"
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      "p": "この変な空間に来た際に落とした、というのはさすがにありえないよな。服が落ちるという状況が想像つかないし。"
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      "p": "じゃあ誰かに盗まれたか？　けれど、それだとそいつが上着だけ盗っていった意味が分からない。普段と違って、ポケットに財布や携帯電話が入っているわけじゃないのに。"
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      "p": "……あ、でも生徒証が入れっぱなしだった気がする。"
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      "p": "【？？】「ーーーーーぁのぅ」"
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      "p": "俺が悩んでいると、突然か細い声が耳を掠めていった。"
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      "p": "それは誰かが声を発した、というのがかろうじて分かる大きさで、残念ながら内容はわからなかった。"
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      "p": "俺は警戒心をそのままに、辛抱強く再度話しかけられるのを待つ。"
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      "p": "すると、そんな俺の様子を見たのかは分からないが、茂みが微かに揺れ、深呼吸ともとれる息遣いの音が聞こえた。"
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      "p": "【友志】「服ありがとう。俺、あの池に落ちてたのか？」"
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      "p": "その子の口調は俺を責める物ではなかったが、俺に関することで困っているのは明らかだ。"
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      "p": "それも当然だろう。この妙な空間を俺の生きる世界とは別世界だと考えるなら、"
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      "p": "まだ推測だけれど、客と呼ばれたからには、この世界にとってこの現象は一般的なことらしい。"
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      "p": "【？？】「……お兄さん」"
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      "p": "俺が話しかけ方を悩む間に、再び小さな声が茂みから届いた。"
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      "p": "【友志】「なんだ？」"
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      "p": "が、その声が震えていることから、かなり怖がられていることだけはひしひしと伝わって来る。"
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      "p": "そんなに俺の話し方って怖いんだろうか。結構悲しいな。"
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      "p": "俺が冷静な声で返せたのを激しく褒めてやりたいところだ。"
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      "p": "可愛らしい幼い少女の声で告げられた所為か、発されたその単語に余計違和感しか感じない。"
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      "p": "【友志】(この世界では、出会い頭の人にそう聞けと教えているのか？)"
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      "p": "俺がため息を吐いていると、彼女はおそるおそるという感じで口に開いた。"
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      "p": "【？？】「なら、たぶん案内の方がきてくれると思います……たぶん」"
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      "p": "【友志】「案内？　わざわざ？」"
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      "p": "案内人が居てくれるなら、とても助かるけれども、それなら早く来て欲しいものだ。"
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      "p": "彼女が連呼した「たぶん」は聞こえなかったことにしよう。"
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      "p": "【友志】「その人達ってどこから来るんだ？」"
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      "p": "俺の世界で言う警察がある——にしては、町やそれに準ずる建造物の集まりらしきものは見当たらないし、はっきり言うと見えない。緑の木々が邪魔で。"
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      "p": "【？？】「……《魔法使いの城》、からです……」"
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      "p": "俺が思っていたよりもすぐに、心無しか嬉しそうな響きで答えが返ってきた。"
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      "p": "きっと特別な場所なのだろう。宝物を自慢するような雰囲気がある。"
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      "p": "俺が少しほっこりしていると、一体どういう場所かわからないのではと思ったようで、慌てて彼女が説明してくれた。"
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      "p": "【？？】「えと……そこがボクのおうちで、みんな一緒に住んでるんです……」"
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      "p": "【友志】「この世界の住人全員が？」"
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      "p": "【？？】「はい……それがどうかしましたか？」"
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      "p": "【友志】「いや、そのー」"
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      "p": "【友志】(人少なっ！！　もっと何万人って単位じゃないの？？)"
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      "p": "あ、でも、実はその城が一個の町ぐらい大きいのかも知れないな。"
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      "p": "そもそも「城」ってのが俺の思っている建造物としての城とは違うのかも。"
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      "p": "……そんな具合に俺は勝手な想像に気を取られ、一切気がつかなかった。"
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      "p": "その城の話をしてもらったしばらく後、俺と彼女は再び気まずい沈黙の中に居た。"
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      "p": "俺にはもちろん聞きたい事が山ほどある。 しかし、年端も行かない少女を質問攻めにするよりも、これから来るらしい案内人とやらに聞く方が良いだろう。"
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      "p": "……正直に言うと、俺はまだ彼女に警戒されているようだから話しかけづらいんだ。"
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      "p": "まぁ、そんなことよりも今はこの沈黙をどうにかしなくては。"
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      "p": "【友志】「……なぁ」"
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      "p": "【？？】「は、はい。……なんですか？」"
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      "p": "【友志】「そろそろ名前を教えてくれないか。俺は友志だ、よろしく」"
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      "p": "【ヘル】「ボ、ボクは……ヘル、です。よろしくおねがいします……」"
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      "p": "俺はすんなり教えてことを嬉しく思いつつ、彼女の名前について考えてみる。"
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      "p": "俺が腕を組んで悩んでいると茂みの向こうから質問された。"
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      "p": "【友志】「ん？　あぁ。こうだ」"
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      "p": "俺は地面に落ちていた木の枝を拾って書き慣れた漢字を書いていく。"
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      "p": "　　　　　　　　　　『香山　友志』"
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      "p": "【友志】「前二つがカヤマで、後ろがユーシだ」"
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      "p": "【ヘル】「ユ……友人と、あと…」"
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      "p": "【友志】「シ。こころざしって意味」"
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      "p": "そう教えれば、再び茂みから彼女の細い腕が伸びて来て、地面に書かれた溝を撫でる。"
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      "p": "【友志】「なー。俺も書けないのいっぱいあるわ……」"
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      "p": "【友志】(うん？)"
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      "p": "ふと、俺の頭にまたしても疑問符が浮かぶ。"
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      "p": "【友志】「ていうか、なんで日本語通じてんの？」"
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      "p": "【ヘル】「……お客さまの言葉は通じるんです……でも文字は、ボクたちの文字で対応するのが無いと、分からないです……」"
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      "p": "なるほど、翻訳機能みたいなものか。確かに何か書いてあっても、それが自分の母国語にない表現だと分からないよな。"
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      "p": "それが十分に伝わっていてくれるといいんだが。  完全には無理だろうな。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "ーーーそしてまたしても突然のことだった。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「……あ。来ました、案内の人……」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】「マジか。はえーな」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「……でもなんで？　いつもの人と違う……」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "困惑したような声が茂みから聞こえて来る。同時に、ヘルの動揺や警戒心がビシビシと伝わって来た。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "俺も慌てて辺りを見渡すが、相変わらず周囲に人気はないし、足音も聞こえない。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "しかし混乱している俺を気にも留めずにヘルは一言言い放った。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「来ます。気をつけて」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】「だから誰が」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【？？&？？】「「みぃつっけたー、きっかくがぃーー！」」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "突然真上から聞こえてきた声に驚いて、俺が避けようともせずに静止していると、隣の茂みから小さな物が飛び出して来た。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "そしてそいつは、俺よりもずっと小さい体で俺を持ち上げて、先ほどまでより掛かっていた大木から距離を取る。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "おそらく間抜け面であったであろう俺は、直後にその物体のーーヘルの選択が正しいことを思い知った。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "俺が座っていた辺りに、"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【？？&？？】「「せぇーのー！」」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "という、可愛らしい掛け声と共に《斧》が二丁振り下ろされたからだ。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "地面越しにその振動を感じると、俺の体に一気に鳥肌が立つ。一歩遅かったら、あそこには俺の……。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "……極度の緊張のためか、むしろはっきりと現れた二人の姿を認知できた。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "幼い女の子の双子で、長い銀髪を髪のはしっこで結んでいる。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "彼女達の目は、紫色と朱色とのオッドアイだ。  楽しそうな笑い声だけを聞けば、ただの可愛い女の子達としか思えない。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "……あの奇行と禍々しい斧さえ無ければ、だが。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "俺はぐるぐると回る頭を冷ましながら、俺を庇うように立つヘルに視線を移した。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "ーーー麦わら色の髪の上に一対の獣耳が揺れている。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "彼女のマントの隙間からは、髪と同じ色で包帯が巻かれている尻尾が見えた。形からするとイヌ科のものだ。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "あの人間かどうかって、自分がそもそも人じゃないから聞いたのか。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「……ユーシお兄さん」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】「あっと。どうしたヘル？」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「……少し待っててください。話を聞いてきます……」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "そういうが早いや、彼女は足音を立てずに双子へ近づいていった。先ほどと違い、尻尾を上下に激しく揺らしながら。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「……お二方とも、門の番は交代されて来たのですか？」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【？？&？？】「「ううーん。門番長にはいってなーい」」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「また怒られますよ……？」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【？？&？？】「「げ～。それよりー、なんできかくがいはぶるぶるしてんのー？」」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "さっきから言ってる「規格外」って俺のことだろうか。俺、社会的には標準だと思ってるんだけど。体力とかの面で。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "あと……「それよりー」で流していい話題には思えなかったけどいいのか。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「ユーシさん、ですよ。お二方のあいさつはお客さまにするなと毎回言われてるでしょ……」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【？？&？？】「「そだっけー？　わすれてたーー。しったいだしったい」」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "この世界の人達どんだけ脳筋なんだよ！　あれが挨拶っておかしいだろ！"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "内心ツッコミながら三人の会話を聞いていると、ふと双子と目が合って気まずい空気が漂った。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "しかし二人は俺のことをじいっと見てきて目を逸らしそうに無い。なんだよ負けねーぞ。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【？？&？？】「「ごめんなさいます」」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】(え？　切り替え早い)"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "意外にも素直に謝られてしまった。謝罪の言葉が正しいものかはこの際置いておこう。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "ヘルの手をかりて何とか地面から立ち上がったが、こういう時ってどうすればいいのか想像がつかない。そもそもこんな場面が初めてだ。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】「は、はぁ」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【？？&？？】「「だからさーー」」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "双子は俺の気の抜けた声を無視して、急にぱっと顔を起こすと俺を真正面から見つめる。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【？？&？？】「ヘルも」「ユーシも」「いっしょに」「みんなで」「「お城にいこー！」」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "見事な連携に思わず俺とヘルで拍手を送る。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "そういえば、この二人は一卵性の双子みたいだな。すっっごいそっくりだし。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "あ、でもオッドアイの配色とアホ毛の向きが逆……って何見てんの俺。今気にするのはそこじゃないって。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「……ユーシお兄さん、大丈夫ですか？」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】「え—と、何とか。そこに行けば帰り方が分かるんだろ」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「……はい、魔法使いさんは、すごいんです」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【？？&？？】「「そーだぞー。どーだ！　ママはすごいんだ！！」」"
    },
    {
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      "p": "ふむ、双子の母親の「魔法使い」が、この世界の重要な人物らしいな。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "……今、俺はその人に言いたいことが一つだけある。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "この案内人、平気か？　絶対人選ミスってるぞ。"
    },
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    {
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      "p": "・　・　・"
    },
    {
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      "p": "【友志】「そういや、門番長がいるんだな」"
    },
    {
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      "p": "【アン&？？】「「アンのじょーしだよ——」」"
    },
    {
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      "p": "自分の上司に何も言わずに来ちゃったのかよ。というかこの双子働いていい年齢なのか？ 　 あと、アンってどっちの名前？　ああ質問が追いつかない……。"
    },
    {
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      "p": "【ヘル】「とても、真面目な方です……」"
    },
    {
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      "p": "ヘルが真面目と言うならば相当だろう。"
    },
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      "p": "【友志】「へぇ。じゃあ君等、今日の仕事は？」"
    },
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      "p": "【アン&？？】「「シゴト？　ナニソレタノシイノ？」」"
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      "p": "ーーー突然だが、俺は生粋の都会っ子だ。つまり、整備されていない道には一切慣れていない。"
    },
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      "p": "【友志】「うぉ！　っとっと」"
    },
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      "p": "【ヘル】「大丈夫、ですか……？」"
    },
    {
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      "p": "【友志】「あー、うん平気平気」"
    },
    {
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      "p": "木の葉の影のせいか真昼だというのに周囲は薄暗くて、そろりそろりとでなければ怖くて歩けない……そんな男としては何ともかっこ悪い状況である。"
    },
    {
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      "p": "へっぴり腰の俺を気にも止めず、少女達は森の道をずんずんと進んで行く。"
    },
    {
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      "p": "つい先ほどそのことが妙に気にかかり、《魔法使いの城》に何か目印は無いのか聞いてみたのだが、"
    },
    {
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      "p": "【ヘルと双子】「「「きそーほんのーー」」です……」"
    },
    {
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      "p": "そう返って来たのでここは大人しく従うことにした。"
    },
    {
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      "p": "なんでも、彼らの言う《城》は近づかないとその姿が分からないようになっているらしい。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "そのまた理由を尋ねたところ。分かったことが二つほど。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "一つ、この世界は住人から「魔界」と呼ばれている。二つ、ここにはいくつかの皹(ひび)が存在する。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "その皹から、有害な——魔界の住人を傷つける《敵》が侵入して来ることがあるのだとか。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "それらに対応する時間を稼ぐため、魔法使いが城に目くらましの魔法をかけた……らしい。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "つまり、住人は帰巣本能で帰り着けるが、それ以外の生き物はそもそも把握できない厳重なシャッターがあるわけだ。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】(というか……魔法使いはその皹直せねぇの？)"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "そんな疑問を抱きながらしばらくして、森の木々が減り出した頃。俺は双子が腰に抱きついて来た衝撃でやっと意識が覚醒した。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "どれだけ黙々と歩いていたのだろう。もういい加減着いてもいいんじゃないか？"
    },
    {
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      "p": "【アン&？？】「「もうすぐだよーー」」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】「分かった……あっ、そうだ」"
    },
    {
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      "p": "【アン&？？】「「どしたーはらかー？　といれかー？　ここにはないぞーー」」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "いや、君らはどうしてそこで俺の腹を心配するんだよ。どうせなら君等が思いっきり飛びついてきた俺の腰を案じてやってくれないかな。"
    },
    {
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      "p": "俺まだぴっちぴちの高校生だから。この年で腰痛持ちには成りたくないから。"
    },
    {
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      "p": "【友志】「いや、君等両方の名前は聞いてねぇなって思って」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【アン&アン】「言ったよー？　『アン』って」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】「へ？」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "双子は同じ音声を同時に発して誇らしげに笑っている。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【アン&アン】「「アンはなまえがいっしょなのー！　いいでそー！」」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "双子は名前も一緒ってか、そんな習慣俺始めて聞きましたよ。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "ここじゃそういう決まりごとでもあるのだろうか。双子とは言え別人なのだから、名前も変えるものだと思うけど。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "楽しげに回り始めた双子を見ていると、おずおずと控えめに俺の袖を引く手があった。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「……お、お二方だけです……おんなじ名前は」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】「あれ？　俺、今声に出してた？」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "だとしたら大問題だ。教室に居る時に頭の中で考えてたことを言っていた可能性が生じる。次折る折り紙の形とか考えてるのに……。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「いえ、今までのお客さまが……みなさん気にしていらしたので」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】「ああ。なるほどな」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "今までの来訪者が気になったことだから、俺も同じように双子の同名を気にしたのだろうと思ったらしい。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "今更だけど、ざっくりと言ってしまえばその人達は俺の先輩な訳だ。 双子曰くその人達は無事帰れてるようだから、俺も帰れるはずだ。きっと。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "……双子の言う「無事」が一体どのレベルなのかはあえて追求しない。俺の心が折れる。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【友志】(とにかく帰らねぇと。できるだけ早く)"
    },
    {
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      "p": "案内人も来て安心したはずの俺の頭の中は、いまだにモヤモヤする淀みで埋まっていた"
    },
    {
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      "p": "そんな俺が転んだ石の数えるのを諦めた時に、ようやく彼らの足は止まった。"
    },
    {
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      "p": "そこは開けた空間だった。"
    },
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      "p": {
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      "p": "【友志】「ついたのか？」"
    },
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      "p": "【ヘル】「……はい。一回、瞬きをしてみて下さい……」"
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      "p": "【友志】「お、おぉ。分かった」"
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      "p": "額に汗一つかいていないヘルに言われた通り、素直に俺は目を閉じてみた。"
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      "p": "そしてじわじわと瞼を震わせながら開く。"
    },
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      "p": "そこで俺は先ほどまで無かった影に気付いて、思わず固まってしまう。"
    },
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      "p": "俺が立っているところに、双子が腰めがけてぶつかって来た。君等人の腰に飛びつくの好きねぇ。"
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      "p": "【アン&アン】「「どーーだ。ママのおしろすごいだろ！」」"
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      "p": "【友志】「……なんつーか。立派だな」"
    },
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      "p": "まこと残念なことに、言語センス及び建築系の知識皆無である俺にはそんな感想しか口に出来ない。"
    },
    {
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      "p": "だが、前述のような俺でも感動させられるぐらいに立派な建物だ。"
    },
    {
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      "p": "いや、これはどちらかと言えば彫刻と言う方がしっくりくる。実際にその城は、茶色の大木を削って建築されたようだった。"
    },
    {
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      "p": "本当に壮大で……じょじょに首が痛くなってきた……。"
    },
    {
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      "p": "俺が首をまわしていると、真後ろに居たヘルが話しかけて来た。"
    },
    {
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      "p": "【ヘル】「あの、ボクはこれで……」"
    },
    {
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      "p": "【友志】「何か用事でもあったか？」"
    },
    {
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      "p": "そうだとしたら手間をかけさせてしまった。すごく世話になったのにもうしわけない。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "ヘルはそんな俺の思いを知ってか知らずか、自分の右腕に巻かれた包帯を撫でながら、理由を教えてくれた。"
    },
    {
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      "p": "【ヘル】「え、と……母さんに帰って来たことを言わないと……心配しちゃう」"
    },
    {
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      "p": "【友志】「まあ、そうだよな……そうだ！！」"
    },
    {
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      "p": "急に思いついて、俺はズボンのポケットから小さな鈴がついたブレスレットを取り出した。"
    },
    {
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      "p": "買ってみたけれどつける機会無いし。アクセサリーは女の子が持っていた方が良いだろう。"
    },
    {
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      "p": "【ヘル】「礼になるか分かんないけど。連れて来てくれてありがとう、ヘル」"
    },
    {
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      "p": "頑張って口角を上げてみたが、果たしてちゃんと笑えているだろうか。感謝を素直に伝えるのはやっぱり難しい。"
    },
    {
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      "p": "俺は固い笑いを保つので精一杯で、ヘルが驚いた顔をして俯いたことには気がつかなかった。"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "【ヘル】「……ボクは……何も」"
    },
    {
      "c": "msg",
      "p": "彼女は片目に巻かれている包帯を引っ掻くように撫でると、静かにその場から歩き出した。"
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      "p": "一度だけこちらを振り向いたが、彼女の蜂蜜色の目に俺は写っていなかった。"
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      "p": "【ヘル】「また後で……」"
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      "p": "俺にとってこの世界で「後」があるのかは分からないが、すぐ帰れるなんて都合のいいことは考えてない。"
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      "p": "俺はしばらくヘルの小さな後ろ姿を見ていたが、双子に急かされて足早に城の門を目指す。"
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      "p": "そんな俺の背に向かって何か、固まりが当たった。"
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      "p": "そんな気がしたが、振り向く暇もなく門をくぐってしまった。"
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      "p": "【ヘル】「彼の、役に立てた。弱くて泣き虫で、意気地無しのボクでも。ちゃんと恩返しが出来た。 ……でもまだ足らない」"
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